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有機分子を固体基板上に並べてつくる「有機薄膜」では,同じ分子を使っていても,分子の向きや並び方によって材料の性質が大きく変化します.特に基板との界面では,バルク結晶とは異なる分子配向や結晶構造(結晶多形)が現れることがあります.
私たちの研究室では,「界面にどのような分子構造が潜んでいるのか」「その構造はなぜ生まれ,どこまで自在に制御できるのか」という問いを軸に,有機薄膜の研究を進めています.製膜条件を精密に制御するとともに,赤外分光法やX線回折法などを用いて,ナノメートルスケールの薄膜中に存在する分子の配列を明らかにします.
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有機薄膜では,分子が基板に対してどの方向を向いているかという「分子配向」が,電気伝導や光吸収などの機能を大きく左右します.しかし,多くの場合,分子はエネルギー的に安定な方向へ自然に配列するため,望みどおりの配向をつくることは容易ではありません.
本研究テーマでは,薄膜が形成される過程そのものに着目することにより,分子間相互作用だけでなく,基板との相互作用や製膜温度の調節を通じて,分子配向を選択的に制御するための指針の確立を目指します.例えば代表的な有機半導体であるペンタセンでは,低温で製膜することによって通常の垂直(End-on)配向とは異なる非平衡状態を固定し,分子面が基板と平行になるFace-on配向を実現しました(Sci. Rep. 2019).
このように,安定な構造を受動的に得るだけでなく,製膜条件や形成履歴を利用して,通常とは異なる分子配列を意図的につくり出すことを目指しています.最終的には,分子配向を機能設計のための自由なパラメータとして扱える薄膜科学の構築につなげます.

有機分子には,同じ分子でありながら複数の異なる結晶構造を形成する性質があり,このような構造を総称して「結晶多形」と呼びます.特に薄膜では,基板との界面や非常に薄い領域において,通常のバルク結晶とは異なる構造が選択的に安定化することがあります.
次世代の有機半導体材料であるDNTTを対象とした研究から,長年バルク結晶と同じ構造だと考えられてきた薄膜中に,わずかに異なる「薄膜相」が存在することを明らかにしました(Appl. Phys. Express 2020).さらに,基板に接する最初の一分子層には,バルク相とも薄膜相とも異なる第三の結晶相「単分子膜相」が形成されることを見いだしました(Chem. Mater. 2026).赤外分光法,X線回折,量子化学計算を組み合わせることで,それぞれの相における分子パッキングまで解析しています.
また,直鎖アルカンを用いた研究では,多層膜で見られる炭素数の偶奇に依存した構造変化が,単分子膜では消失することを発見しました(J. Am. Chem. Soc. 2024).この結果から,界面構造はバルク構造の単なる延長ではなく,界面という特殊な環境によって生み出される固有の分子集合構造であることが分かります.
こうした「まだ知られていない界面構造」を見つけ,その構造と形成機構を分子レベルで解き明かすことが,研究室の大きな柱の一つです.
